日本からのゲストの方に聞かれて一番答えにくい質問、それは「ジャカルタって安全ですか?」という質問です。
ひと昔前のジャカルタは本当に危なかったそうです。
数十年住んでいる方のお話を聞くと、車から一歩も外には出れなかったのだとか。
最近のジャカルタはどうでしょう?
人によっては「思っていたよりも安全」という方も多い。
一方で「やはり危ない」という方もいます。
筆者はいつも「南米辺りと比べるとまだ安全で命の危険を感じることはほとんどない。ただ外国なので油断はできない」と回答しています。
中途半端な回答ですが、安全です!と言い切って相手が「油断」してしまい、何かに巻き込まれてしまっても責任が取れないですから。
海外生活が長い人に聞くと「慣れてきたと思ったら犯罪に巻き込まれた」という人もいますしね。
ということもあり、治安に関する記事を書くに際して「安全か否か」ではなく、できるだけ事実ベースで「注意すべき点」をリストアップすることにしました。
出張や新生活はもちろん、観光で訪れる方も参考情報としてご覧ください。
本記事の目次
デモ
ジャカルタは首都ということもあり、小さなものから大きなものまでデモが多いです。
最近記憶に新しいのは、2016年11月に始まった、バスキ・プルナマ(通称:アホック)知事の「イスラム教冒涜」を弾劾するための大規模デモです。
詳細はここでは語りませんが、一回あたりのデモで最大5万人が集まり、一部では破壊活動も発生しました。死人こそ出ませんでしたが一歩間違えば死人が出ていてもおかしくはなかったかもしれません。
インドネシア人の集団心理の怖さは有名な所で、ひとたび感情の線が切れると止められなくなる場合もあります。デモの話と一緒にするのが正しいかはわかりませんが、1998年5月にはマレー系の一般市民が暴徒と化し、現地華人1,000名以上を虐殺する事件も起きています。
間違えても外国人が興味本位で覗きに行くなんてことはしないでください。
デモへの安全対策
- 事前に情報を掴むこと
- 発生現場には絶対に近づかないこと
の2点に尽きます。
前者に関しては在インドネシア日本国大使館が事前に情報をキャッチし、在留邦人に対して発信しています。メールマガジンに登録しておけば「注意喚起メール」が届くので登録しておくべきでしょう。
テロ
ジャカルタではここ10年でイスラム過激派によるテロが2回発生しています。
- 2009年7月17日の「JWマリオット」及び「リッツカールトン」爆破。死者9名、負傷者50名以上。
- 2016年1月14日の「サリナデパート」での爆破及び銃乱射。民間人の死者4名、負傷者30名程度。
それ以前には2003年に豪大使館爆破テロもありました。
また、イスラム過激派との関連性は明確ではないものの地方での爆破事件、テロを計画していたとする逮捕者も出てきています。
ジャカルタに限らず世界全体を見るとテロの発生件数は増えています。今後ジャカルタが狙われるのかは誰にもわかりませんが、テロが再び起きないということも誰にも言えません。
1点だけ確かなことは、同じイスラム教ですがインドネシアのムスリムの方々と過激派と呼ばれる人たちは違います。多くのインドネシアのイスラム教の人たちにとっても、我々と同じくテロは脅威であり撲滅していくべきものなのです。
テロへの安全対策
テロを避けろと言っても現実的ではないでしょう。「外国人が集まる所には行かない」、「人ごみは避ける」などの対策論もありますが、それをやるとそもそも日常生活ができません。
筆者は専門家ではありませんが、少し前にTwitter上で流れてきた「いざ巻き込まれてしまった時のテロ対策訓練のメモ」というのが非常に納得感がありました。
- 何が起きてもとにかく逃げる
- 仲間とはぐれてしまっても探しに行かない
- 決して立ち向かわない
などの内容は筆者も覚えています。
現在その方のTweetは承認制で見れなくなっているので、当該Tweetに触れている別の方のブログをご紹介しておきます。
犯罪
最近のジャカルタは数年前と比較して治安が良くなっているという意見を聞きます。
一方で2015年には日本人女性が強盗被害で殺される事件も起きています。また、2017年2月にはジャカルタ中心部の歩道橋での強盗被害に対する注意喚起が在インドネシア日本大使館より発せられています。
確かに10年以上前と比較して大きな犯罪というのは減っているのかもしれません。個人的な経験でも今まで「危険」を経験したことはありませんし、記憶が無くなるほど泥酔しても狙われることなく無事に生活できています。
ただ、これは単純に筆者の運が良いのだと思います。
インドネシア国内のニュースを見れば依然として窃盗や強盗などの犯罪は定期的に発生していますし、時として殺人強盗事件というのも発生します。
新しく生活を始められる方及び出張者には、くれぐれもここは外国であり自分達は目立つ外国人である、という認識を持った上で配慮ある行動を求めたいところです。
スリ・置き引き・ひったくり
ジャカルタで生活していて最も出会う軽犯罪は「スリ」、「置き引き」、「ひったくり」の3点ではないでしょうか。
バスや電車に乗ればインドネシア人だろうが日本人だろうがスリに出会うことがあります。
また、住宅街オフィス街問わず路上で発生するのが女性を狙ったひったくり。すれ違いざまや背後から複数名が乗るバイクでバッグや携帯電話を奪い取っていきます。
「置き引き」についてはまさにちょっと目を話した隙に持っていかれます。筆者も一度携帯電話を持っていかれたことがあります。
スリや置き引き、ひったくりへの安全対策
常時自動車で移動する、というのが万全策ですがそれだと生活が味気なくなりますし、何より歩かざるを得ない時だってあります。
インドネシア人たちに注意されたことも含め、対策を挙げると。
- カバンを通路側や道路側に向けない
- 外でむやみに携帯を使わない(人だかりがある場所でもあまり使わない)
- 奪い取られそうな目立つ貴金属は身に着けない
- 暗い場所、危ない場所で個人行動しない
あたりです。
蛇足ですが、「私は自分の荷物に対して注意を払っています」という雰囲気をプンプン漂わせておくだけでも違ってくるでしょう。
タクシートラブル
公共交通機関が未発達のインドネシアではタクシーやバイクタクシーが庶民の足です。最近ではGRABやUBERなどのサービスの勢いがすごいですが、それでもまだまだタクシーに乗ることは多い。
そのため、タクシーに関する大なり小なりのトラブルは絶えません。
小さいものだとお釣り問題や遠回り問題などがありますが、ここでは触れません。
問題は大きなトラブルで、いわゆる「逆タクシー強盗」です。
筆者がジャカルタに来た初期は逆タクシー強盗が頻発してた時期でした。トランクに潜んでいた男が改造後部座席から飛び出してきて「金出せ」というパターン。
現在は定期的に新聞を騒がせることはありません。それでもやはりたまに「韓国人男性が襲われた」のように外国人が巻き込まれる事件は発生しています。
タクシートラブルへの安全対策
ちょっとしたことに気を付けるだけで遭遇率は下げられます。
- 生活に慣れたとしても極力ブルーバードやエクスプレスなど大手タクシーを使う
- 夜の繁華街ではお店にタクシーを呼んでもらう
- モールやホテルにいる場合は待機しているタクシーを使う(ナンバー管理されている)
- メーターを使わないタクシーはその場で降りる
などです。

特に気を付けたいのはタクシーがつかまらない時間帯まで遊び明かした時でしょう。先ほど触れた韓国人男性も確か飲んだ帰りのタクシーが強盗タクシーだったはず。
ただ、どこまで気を付けても出会う時は出会います。
万が一遭遇した場合は絶対に抵抗してはいけません。相手に殺すつもりが無かったとしても、興奮して殺してしまうパターンが多いのがインドネシアです。
興奮させずに金を渡してしまいましょう。命に比べれば安いものですよ。あなたの命は財布の中身よりも圧倒的に高い価値を持っています。
警察・役所関係
治安安全情報で警察役所が出てくるのもおかしな話ですが、東南アジアでは公務員の腐敗・汚職がひどい国も多く注意が必要です。
インドネシアも古くから賄賂が横行しており、末端では強制的に賄賂を要求する通称「お小遣いかせぎ」が繰り広げられています。
若い方々から変えていこうという雰囲気はありますが、まだまだ改善には時間がかかるため注意していた方が良いです。
我々外国人が最も出くわす可能性が高いのは「パスポート不携帯などを理由にした賄賂請求」です。
警察・役所関係への安全対策
こちらがルールを破っていた場合は言い逃れもできないため立場が悪くなります。まずはパスポートに対して正しいルールを把握した上で正当性を主張するか、交渉するかの選択をします。
ITAS(暫定居住許可)を持っている場合
JJC(ジャカルタジャパンクラブ)労働問題委員会が入国管理局に正式見解を求めたところ、ITAS保持者はITASを保持していればパスポート原本の携帯は必要はない、という返答が示されています。
ただし、この国特有ですが、担当者によって文章の解釈が異なる場合があります。無駄なもめごとを避けるためにJJCではレター文書を印刷して「紋所」のように携帯することを進めています。
ITASをお持ちの方でまだご存じない方は下記をご確認ください。
▶当地滞在におけるパスポート及び暫定居住許可証(KITAS)の携行について (在イ日本国大使館)
ITASを持っていない場合(=観光客や出張者)
ITASを持っていない場合はパスポート原本の保持が必要です。
コピーでは難癖つけて連行される可能性があります。
観光の場合もパスポートの原本は必ず持ち歩いてください。
パスポート以外の話(ビザと活動内容のずれ)
パスポート以外の話だと、保有しているビザと現地活動内容のずれを指摘され、賄賂を求められる場合もあります。
特に多いのは「ビジネスビザ」をターゲットとした指摘です(シングルビジネスビザ、マルチプルビザ双方)。
ビジネスビザでは「商談」、「営業」、「品質管理」は大丈夫とされますが「技術指導」はダメ、という非常にあいまいな線引きがされています。
工場に入るのはNGという見解がベーシックとなっており、工業団地周りの出張者はよく狙われます。
ホテル担当者や警備員が入国管理局へチクリを入れる場合が多いと聞いてます。根本的な解決にはなりませんが、活動エリアと宿泊エリアを離す、という対策を取る人もいます。
健康・事故
見出しそのままですが、健康や交通事故にも日本とは異なる注意が必要です。
水道水・食中毒
首都とはいえ、ジャカルタの衛生環境と日本の衛生環境は全く異なります。
まず気を付けたいのは水道水。日本と異なりインドネシアの水道は飲めません。地域によって差はあるのですが、大腸菌含有量が多く、多量に摂取すると肝炎などを引き起こすと言われています。
あと気を付けたいのは食中毒。年中夏のインドネシアでは食材が痛みやすい。たとえ飲食店でも衛生管理が行き届いていない店だと「これ…いっちゃってるよね…」という食材が出てくることもあります。
水道水・食中毒への安全対策
飲料水はもちろん、料理で使う場合もお水はミネラルウォータを利用しましょう。在住者の多くはウォーターサーバーを設置している場合がほとんどです。シャワーや歯磨きであれば気にしすぎる必要はないですが、気になる方は浄水器という選択もあります。
食中毒対策としては、外食先の選び方に尽きます。ある程度しっかりしてそうなレストランを選ぶようにし、氷にも気を付けてください(水道水を使っている場合もある)。
と、ここまでは一般的な話。
あまり保守的になり過ぎるのも行動範囲を狭めて面白くないでしょう。筆者含めガンガンローカルレストランや屋台でご飯を食べる日本人もいます。
その際は下記にご注意ください。
- できるだけ加熱調理されたものを選ぶ(長時間放置はさすがにやばい)
- 大丈夫か大丈夫じゃないかは自分で見極める(店を信じすぎない)
- 大丈夫じゃない場合に捨てる勇気(無理して食べない)
注意したとしてもお腹を壊す時はあります。病気の時など屋台料理は控えた方が良いかもしれません。
交通事故
日本やシンガポールとは違い、インドネシアの車は止まりません。人間よりも車の方が偉いのです。
また、無免許運転が非常に多い。さらに免許は日本のように厳しい講習はなく、金で買うようなものです。交通ルールや運転に対する知識はほぼ「現場」で覚えていきます。
そのため事故は少なくありません。表面上事故が少なく見えるのは渋滞でスピードが出ていないだけで、実は小さな接触事故はかなり頻繁に起きています。
バイクの転倒事故も多く、筆者の周りでも若い子がたまに足を引きずったりしています。
事故には巻き込まれたくないものです…。
交通事故への安全対策
まずは日本の感覚を捨てることです。車は急に止まらない、ではなくインドネシアの車は止まる気があまりないです。
インドネシア人は斜め横断をよくしますが、外国人がいきなり単独で真似をすると危険ですので絶対やめましょう(せめて後ろをついていきましょう)。
また、道を歩く際は必ず道路の脇を歩きましょう。中央に近づくと本当に体スレスレの所を信じられない速度で自動車が通ることがあります。筆者も危うく死ぬかと思ったことが数回あります。
事前対策と緊急対応
その他抑えておきたい点をまとめておきます。
過度に派手な身なりは避ける
強盗やひったくりは貧乏人よりも金持ちを選びます。
外国人はただでさえ金持ちだと思われているのに、さらに派手な格好をするのは「狙ってください」と言っているようなものです。
また、身なりだけではなく不断の生活ぶりに目を付けられる場合もあります。できるだけ質素堅実に見せておくのも異国では重要な防犯対策です。
夜間の一人歩き、危険エリア徘徊は避ける
夜間の一人歩きは控えましょう。強盗やひったくりに合わなかったとしても、外国人を狙った詐欺などに巻き込まれる可能性も発生します。
また、ジャカルタにはローカルが通うミュージッククラブなど、治安が悪いとされるエリアや場所があります(特に北のコタエリアに多い)。
どうしても夜遊びしたい場合は事前に治安情報を調べ、帰宅手段も確保した上で挑みましょう。

日本大使館の場所と連絡先は把握しておく
いざという時のために大使館の連絡先は抑えておいた方が良いでしょう。
在インドネシア日本国大使館(Embassy of Japan in Indonesia) | |
住所 | Jalan MH Thamrin No.24、Jakarta Pusat、DKI Jakarta 10350 |
電話番号 | +62 21 3192 4308 |
FAX | +62 21 3192 5460 |
開館時間 | 8:30~12:00、13:30~15:00 |
休館日 | 土、日、祝日 |
Web | http://www.id.emb-japan.go.jp/index_jp.html |
また、その他必要になりそうな緊急連絡先は下記の領事館ページに掲載されています。
蛇足ですがジャカルタの警察と救急車は日本と同じです。
警察(緊急):市外局番無しの110番
救急(緊急):市外局番無しの119番
最新情報は必ずチェックしておく
最新情報でデモ予定や犯罪の傾向を抑えておくのは本当に重要です。すでにお伝えした通り、大使館のメールマガジンには必ず登録しておきましょう。
最後に
個人として考えた時に、思いつく限りの身の回りの治安や安全について書いてみました。
1点だけ筆者が書けなかったのは「子育て」関連の安全対策です。
インドネシアの学校教育は問題も多く、校内暴力やセクハラも多いと聞きます。外国人が子供を育てる際にも注意を払うべきことが多々あるのかと思慮します。
ただ、こればかりは実際に育ててないので肌感がありません。この役割はどなたか子育てされている方にお任せいたします。