先日誕生日を迎えたパートナーからリクエストがあり、少し面白いレストランへ行ってきました。
その名も「ナマーズダイニング(Namaaz Private Dining/以下、面倒なのでナマズと呼びます)」。
ジャカルタで一番最初の、且つ最も有名なガストロノミーレストランとして知られる、完全予約・前払い制の高級レストランです。
これが期待を裏切りとっても面白かったのです。
あまり日本語での情報がなかったので、しっかりまとめてみます。
本記事の目次
ガストロノミーとは?
ナマズは俗に言うところの「分子ガストロノミー料理」のレストランです。
料理の過程で食材の変化の仕組みを分析かつ解明し、調理技術とガストロノミー上の現象を科学の視点から社会的、芸術的、技巧的な要素で解明するものである。
料理を科学的見地から解析かつ分析し、これまで経験や勘で伝承されていた調理法の暗黙知の部分を形式知化させることで、曖昧に伝わっていた味覚、風味、食感などが形式化され、今後の食に関係するあらゆる分野(調理法の改善、調理時間の短縮、食材の保存、食材の活用、新規食材や新料理の出現、新規調理器具等の開発)での応用が期待される。(Wikipedia)
文字にすると難しいのですが、筆者流の理解で言うと「化学的アプローチで既存の概念にとらわれない、美味しさだけじゃない新しい食体験を楽しもうよ!」です。
動画で見た方がわかりやすいのでいくつかYoutubeからピックアップしてみます。
例えば、見た目はイチゴだけど中はパウダーアイスのデザート。
半熟目玉焼きみたいなジュース。
このようにものすごい手間をかけて見たことのないような料理を提供してくれるにが「分子ガストロノミー」という領域です。
ジャカルタで一番有名なレストランと言っても過言ではない「Namaaz Dining」
その分子ガストロノミー料理を提供するレストランとしてインドネシアで一番最初にOPENしたのが、若きシェフAndrianさんが率いる「Namaaz Private Dining」です。
こちらがAndrianさん。
色々なメディアにも取り上げられる有名人です。
ナマズはインドネシアの高級レストランとしては誰しもが知る存在となっており、
- インドネシアのレストラン情報アプリ「ZOMATO」内で、ジャカルタレストランとしては最高評価の4.9(同列1位)
- 旅行者ご用達の情報アプリ「Trip Advisor」内でジャカルタレストラン約7,500店舗の中単独1位
というまさに名実ともにジャカルタトップレベルのレストランとして評価されています。
筆者がジャカルタに来る以前の段階でもTrip Advisorで1位だったので、ここ数年間は不動の位置にいるのでしょう。
日本人であれば誰しもが変な名前だな~と思う「Naamaz」の由来はなんと!日本のお魚のナマズにインスピレーションを受けて……ということではなく、ギリシャ語で「お祈り」という意味だそうです。まだ営業し始めたばかりのころは店も小さく不安で、神に祈るつもりでこの名前を付けたそうです(シェフ本人談)。
完全予約制で前払い、さらに時間指定で遅刻厳禁!
小見出しだけでほとんど書いてしまったのですが少し敷居が高く、客側に求められることもいくつかあります。
まずお料理は完全事前予約のコース制で、2016年9月時点でおひとり様1,250,000 IDR(税・サ含む)。
開始時間も予約時に指定をしなければならず、18:30、19:00、19:30の3つの中から選び、顧客都合でずらぜません。早くついても時間まで待つ必要があります。遅れた場合は……わかりませんがきっとよろしくないことが起こるでしょう。
予約は公式Webサイトの予約フォームから行い、予約が完了するとInvoiceがメールで届くので事前に指定銀行口座に振り込まねばなりません。
ちなみに筆者が予約した際はフォームから申し込んでもすぐには連絡がなく、1時間後に電話で催促をしました(直前予約だったので焦りまして…)。1時間は極端ですが、1日返信が無ければこちらからプッシュした方が良いでしょう。なぜならば万が一予約されていない状態で放置しておくと予約が埋まってしまう可能性が高いからです。
お酒含むドリンクは販売しておらず店内では水のみ提供されます。酒の持ち込みは別に問題ないようで、実際筆者が訪れた際にはワインを持ち込んだ西洋人のオッサン達もいました。
また、結婚記念日なのか自分達の写真やフラワーで座席をコーディネートしてもらっていた金持ちインドネシア人カップルもいました。多少のリクエストでれば相談に乗ってくれるようですね。
セノパティにひっそりとたたずむ看板無しの一軒家
お店はジャカルタの(未来の)代官山、ことセノパティエリアにあります。目抜き通りのJl.Gunawarmanにあり、KFCの向かいあたり。
目印となる看板はなく、筆者の場合はお店に近づくと守衛が「Naamaz?」と聞いてくれたので簡単にわかりました。
皆さんにお伝えできる目印はこれ。

暗闇なので参考にならずすいません。このNO.42を目指すか、周辺で困った感じでウロウロしていれば守衛が声をかけてくれるはずです。
店内に入るとシェフの挨拶とともにショータイムの始まり
店内はテーブルが8つほどあり、合計で約30席程度あります。座席は完全に準備されており、イタリアンやフレンチレストランのような雰囲気です。


座席につくとシェフのAndorianさんがコンセプトの説明をしてくれます。
最近すっかりインドネシアンチャイニーズに間違えられる筆者ですが、今回も安定してインドネシア語で説明開始されました。
でもご安心を。外国人の客も多いのでシェフのAndorianさんは英語も話せます。途中から英語に変えてもらいました。
中でも印象的だった言葉は「What you see is not What you get ! 」ということで「料理の外見と中身は違うこともありますよ~」というお話。まるでいたずらっ子のような目で説明してくれました。あとで感じましたがこのシェフの性格がこのお店にはそのまま表れていますね。
今回のお料理は全部で17品、提供時間は総計3時間!
一つ一つが面白かったのですべてキレイに写真を撮り、説明内容もバッチリMEMOしています。
で、いつもなら食べた内容をご紹介していくのですが、今回は少し事情が違います。
というのも、このお店の一番の価値は「驚き」です。全部種明かしてしまうと楽しみがまさに「半減」してしまうと思うのです(筆者はまったく何も調べないで挑んだので全力で楽しめました)。
シーズナリーで料理を入れ替えており、「来月から変えるのでまた来てね、半年に一度コースを変えてるんだ。」とシェフは言っていたもののマジックショーと同じで常に100%変えていくわけでもないでしょう。
とはいえ何も書かないと何も伝えられない……ということで5つに絞って出てきたメニューをご紹介します。
うわ~見たくない!という方はこのまま記事終盤の「Namaazを一層楽しむための条件」だけ見てページを閉じてください。
Chips with Sambal Balado Sauce
シェフの挨拶が終わると早速コースが始まり、スタッフがカラフルなポテトチップスを運んできました。

そしてキャンドルに火をつけて、料理の説明を始めます。

「これから様々な料理を一つずつ運んできます。最初はこのポテトチップスで…………火が消えたらキャンドルにつけてお召し上がりください。このキャンドル、サンバルです。」
え?今なんて言いました?
と思わず突っ込みたくなる説明でスタートを切りました。
オシャレなクリスマスカラーのキャンドルだと思っていたらなんとサンバルソースを緩く固めたものだとか。
炎は1分ほどで消えてしまうので、その後チップスを付けて食べます。
サンバルは優しい味付けで、丁寧に調理された印象を受けました(予約時に激辛はお尻が痛くなるのでやめてくれ、と伝えていたのでそのせいかもしれません)。
この一品だけでもだいぶ雰囲気が伝わるかと思いますが、終始こんな感じで進みます。
Tartare Steak
「タルタルステーキはご存じですか?」と持ってきてくれたのがこのお肉。

「タルタルとは生肉のステーキで、生卵と一緒に食べることで……、でこのお肉と玉子は一緒にお召し上がりください。」と颯爽に去っていくスタッフ。
インドネシアで生肉なんて珍しなぁ、ありがたい。と思ってバクっと口に含むと思わず笑ってしまいました。
肉じゃなくて甘酢で味付けした「瓜」。さらに卵はマンゴージェリー。まだ食前のアペタイザー。思えばこれはまだ3品目で肉が出てくるはずはなかったのです。
言われなければ生肉にしか見えず、実際言われなかったので本気で生肉だと思って食べたので驚きでした。
Cassava, Rice Cracker, Sambal roa
もくもくと煙が充満したお皿が登場。
蓋を開くと中から登場したのは、

どう見ても木炭。
で、中身は少しスモークされたシンコン(キャッサバです)。黒い木炭のカスみたいなのはライスクラッカーで、炭の下にはこれまた黒く色づけされたサンバルソースが敷かれています。
シンコン自体の味というのは正直普通ですが、ややスモークで香りづけされている点は新鮮でした。この料理もサンバルが丁寧な味で美味しかったです。
Chicken Curry with Coconuts Sauce
お料理も中盤に差し掛かり、いきなり登場した鉛筆削り。しかもキャンドルであぶられます。

この辺りになると「この鉛筆削りは食べられません」などとスタッフも小粋なジョークをかましてきます。
さらに登場したノートブックと鉛筆。

お勉強でも始まるのかと思ったらスタッフが説明し始めたのは「次はチキンカレーです」とのこと。
鉛筆はカレー風味のスナックで、ノートはチーズっぽい感じでココナッツ風味、鉛筆の削りかすはオニオンやらチキンのドライチップスで、鉛筆削りの上で炙られたのはハーブソース。
食べ方はこうです(※)。
※自分の動画ですが食べ方が遅くてへたくそなのでイライラします…あらかじめご了承ください。
うん、確かにまとめるとチキンカレーの味がする。
ノートに書かれた「Ini ibu Budi……」というのは、インドネシア人が小学校で最初に学ぶ言葉なのだそうです(私は佐藤です、的な)。
Exploding Ice
コースも終盤に差し掛かり。配られたのは「ビニールのレインコート」。
いい年した白人おじさん(ワインで酔っ払い)も、ロマンティックな結婚記念日カップルも、海外からのゲストの接待でガチな感じのグループも、もちろん筆者たちもビニールをかぶります。
軽く照明が落とされ、アッパーな感じの音楽とともにスタッフが持ってきたのがこのお皿。

スタッフがさらにパウダーアイス(?)みたいなものをスプーンで皿に混ぜ込むと、「パーン!パーン!」とはじけ飛ぶアイスクリームたち。

さらにシェフのAndrianさんが登場して床にドライアイス(?)をぶちまけて床全体がひんやりしたショーステージみたいに。
状況は動画でご覧ください。
ここまで来るとお料理ではなく完全にエンターテイメントショーですね。
筆者のパートナーのお皿からはすべてのアイスがはじけて残っていませんでしたw
おまけ
これがこの日のバースデーケーキです。
まるで黒魔術。何かを召喚してしまいそうです。
この日は4組のバースデーカップルがいて辺り一面がもくもくしていました。
Namaazを一層楽しむための条件
一部ではありましたが、コースの様子をご紹介しました。
以上のような「プロセス」も含めて食事を楽しむ、エンターテイメント型のレストランです。個人的には筆者もインドネシア人のパートナーも大満足でとっても素敵な誕生日ディナーとなったなぁ、と感じています。
ただ、口コミを見ていると人により評価が分かれることもあるようです。非常にユニークなコンセプトのレストランなのでしょうがないかな、と思いつつも、筆者が感じたこのお店を楽しむためのポイントを書いてみます。
以下、3点です。
- インドネシア料理をすでに結構食べまくっていること
- エンターテインメントを価値として許容できること
- できればインドネシア人と行くとよいかも
インドネシア料理をすでに結構食べまくっていること
酷評する方のほとんどは「値段に見合わない味」ということを指摘しています。コースだけで一人約一万円は確かに安くはないですし、日本(他先進国も含め)だとかなり美味しいコース料理を楽しめますよね。
実際に筆者が食べた料理の中にも正直「微妙」なものもありました。でも、それはよく考えるとそもそもインドネシア料理として苦手な味付けのものだったりします(伝統的なインドネシア菓子をベースにしたデザートなど)。
逆に、普段食べてるインドネシア料理を基準に考えると「おー、よく作られてるなこの味」というものも結構ありました。
なのでまずインドネシア料理の基本的な味を知らないと「高いわりに美味しくないコース料理」となってしまう可能性が高いのだと思います。
また、知識として様々なインドネシア料理を知っていることも重要です。
ある程度の知識があると、「アシナンがこうなっちゃうんだー」や「チャベがチョベツに乗ってくるなんてジョークがきいてるね」というような感覚で楽しむことができます。日本人のケースで言えば、「え?これが冷奴なの?」、「このオハギは斬新だね~」みたいな楽しさだと思うんですよ。
まったくインドネシア料理に馴染みが無い状態で、旅行者や駐在したばかりの方が「美食」を求めて来てしまうと微妙なお食事になってしまう可能性があるので気を付けてください。
純粋に日本の感覚で美味い飯を食べるだけなら同じお金で高級居酒屋に行った方がいいです。
エンターテインメントを価値として許容できること
価格にはエンターテインメント料金が多分に含まれています。
ただ料理の味を楽しむだけではなく、ユニークな食べ方や、期待を裏切る驚き、時には客席全体を巻き込んだショーのような料理も。
昔日本で「クラヤミ食堂」という「目隠してクラヤミの中、全く知らない他人同士でご飯を食べるイベント」に参加したことがあるのですが、そこまで行かなくとも近しいエンターテイメント性を感じました。
このような「エンターテインメント性を食事の価値として受け止められるかどうか」は満足度に大きく影響を与えると思います。
というか、「クラヤミ食堂」ジャカルタでやったら大うけしそうだな……。どなたかご興味ある方お声掛けください、一緒にやりましょうw
できればインドネシア人と行くとよいかも
最後は絶対の条件ではないのですが、インドネシア人と一緒に行くと一層楽しめるのかもしれません。
例えばご紹介したノート料理(?)に書いてある文字が「インドネシア人が最初に学ぶ一文」などはさすがに筆者も知らず、インドネシア人のパートナーに教えてもらいました。
また、レストランスタッフの中には英語が苦手な人もいて説明がインドネシア語になってしまうことも。その場合もパートナーに英語で訳して補足説明してもらいました。
料理の内容や細かい文脈など含め、説明の内容をきちんと理解できた方が楽しいことは間違いありません。
まとめ&店舗情報
筆者の文章でお伝えできたかどうかはわかりませんが、とてもユニークで面白い体験ができるレストランです。そしてシェフのAndrianさんは間違いなくジャカルタを代表するフードクリエイターでしょう。
ジャカルタに住んでいるのであれば一回は訪れてみる価値があります。
利用シーンとしては記念日のイベントが合うのでしょうね。
<店舗情報>
所在地: Jl. Gunawarman No.42, 4, Kby. Baru, Kota Jakarta Selatan
電話: +62 811-1557-798
営業時間: 18時30分~0時00分
Web: https://www.namaazdining.com/