インドネシアと深く関わっている日本人の中にはインドネシアに帰化し、インドネシア国籍を持つ方々がいます。
筆者の知っている方もまさに帰化申請中ということで、「これは面白い話がきけそうだ」と先日お会いしてきました。
普段はなかなか話に上がることはないこの「インドネシアへの帰化」。
本人の体験談を含めながらお伝えします。
取材協力者
今回取材に協力していただいたのは、縁日祭の記事で登場いただいた竹谷 大世さん。

縁日祭の運営委員長は影の姿(?)で、普段は複数事業を展開する経営者です。
お話を伺ったのは2018年12月頭。帰化申請が終わったタイミング(受理待ち)ということで記憶がホヤホヤなうちにお話しを聞かせてもらいました。
そもそも帰化する理由は…?
どうもご無沙汰しています。
どうもご無沙汰です!
大世さんがインドネシアに帰化されると聞きました。なかなか表に出てこないお話だなぁ、と思いまして。私の結婚話と同様、後に続くかもしれない方のために記録に残せればと思っています。
どうぞどうぞ。なんでも聞いちゃってください!
ではまずべたべたな質問からになりますが、そもそもなぜインドネシア人に帰化しようと思ったのでしょうか?
自分の会社のためですね。インドネシアで本腰を据えてビジネスを展開するために今回踏み切りました。
と言いますと?
ご存知かと思いますがインドネシアって外資規制が厳しいじゃないですか。業種ごとに会社を作らないとダメですし、一社ごとに1億円近い追加投資も求められる。
しかも設立認可が降りるまで1年以上かかる。規制もコロコロと変わるし、事業展開の足かせになる点が多いんですよね。
ありますね。他のASEAN諸国と比べて海外企業が進出しにくい国というのはよく聞く話ですし。
そうなんですよね。その点ローカル企業はかなり有利なんですよ。ローカルPT(※)は数十万円で作れるし、設立まで数カ月も待つ必要がない。
※インドネシアの株式会社みたいなものです
インドネシア人であれば会社を作らなくても下手したら「個人事業」として運営してもよいわけです。
まさに雲泥の差。
そうなんですよね。ちょうど2回目のKITAP(※)の更新でKITAP SELAMANYAという永住権に近いものをいただいていて。
※簡単に言うと5年分の滞在ビザです
これは「優良外国人」と同じような意味合いがあるんです。私の場合はもうインドネシアでずっとビジネスすることは間違いないので、この機に帰化しようと思いました。
日本人じゃなくなるデメリットはどうなの?
なるほど。あらためて聞くと大世さんの場合、条件もバッチリそうだし帰化するメリットは絶大な感じがしますよね。
メリットはかなり大きいと思いますね。
でも、これも死ぬほど聞かれていることかもしれませんが、日本人じゃなくなるデメリットもあるんじゃないですか?
それよく聞かれますねw でも皆さんが思っているほどデメリットはないと思っています。
なるほど。と言いますと?
一番心配されるのはパスポートのことですね。日本のパスポートは強いですよね。
日本のパスポートは世界最強クラスでどこでも行けますからね。
そうなんです。その点インドネシアのパスポートは日本のものと比べたら不便かもしれません。いけない国もあるのかも。
でも、よく考えたらインドネシアの人たちもけっこう海外行ってるじゃんってw

うーん、確かに多い。私の周りもみんな普通に行ってますね。アメリカ、欧州、ロシアにオーストラリア、さらにイスラエルにサウジアラビア…多いですw
手間は少し増えるかもしれませんが、別に外国に行きたいときは行けるんですよ。それに私の場合はもうそこまで遠く海外旅行に行くこともないかな、という理由もあります。もうけっこう行ったので。
パスポート以外には何かデメリットはあるんですか?
うーん、あとは日本の資産関係ですかね。例えば日本でマンションを買いたいと思っても外国人だとローンを組めないはず。
となると現金ニコニコ一括払いですか?
そうですね、一括で買う選択肢もありますが、嫁や子供の名義で買う選択肢もありますね。
おぉ、インドネシアと逆パターンですね(※)
※インドネシアの場合は外国人が家族の名義で買うことは多い。
そう考えると私の場合はそこまでデメリットは無いんです。あきらかにメリットの方が多いです。
審査はどう進むの?
次にプロセスについて聞かせてください。漠然とした質問で申し訳ないのですが帰化申請ってどう進めるんですか?
どこから話そうかな…そうですね…。まず帰化申請の管轄はインドネシアの法務省です。法務省にもろもろ申請をしていきます。
イミグレ(イミグレーション)じゃないんですか?
帰化まで行くと法務省の管轄になるんですよ。で、直接申請することもできるんですが、私の場合はエージェントに間に立ってもらって進めました。
申請の順番はけっこうシンプルでして、まず必要な書類を日本とインドネシアの双方で集めて申請する。その後法務省に赴いて面接をする。問題なければその後受理されます。
そのシンプルな中にいろいろと面倒が隠れてそうですね。私の結婚プロセスも端折れば書類集めて挙式して許可証を各所からもらう…というシンプルな流れでした。
でもそれを終えるのに約一年かかったし、最後は6000文字くらいの記事になりましたからねw 全部書いたら短編小説くらいにできましたよ。
ははw
ちなみに書類って何を用意されるんですか?
まずは日本人の証明として戸籍謄本、あとは免許証や資格関係の証明書類ですね。それとインドネシアでの過去の納税証明も全部整理して提出しました。
納税証明ですか。
はい。日本人であることを証明しながら、「自分がどれくらいインドネシアに貢献してきたか?これからもできるのか?」というところを見られるんですよ。
おーー、なるほど。確かにそうですよね。帰化ってそういうことでした。
もちろん経営している会社についても報告しています。でも私の場合は自分で言うのもなんですが会社としても個人としても今までかなりの額をきちんと報告して納税してきました。ですのでそれほど面倒でもなかったです。
それよりも面倒だったのは大使館からの「日本人証明」です。
え?そんなもの発行してくれるんですか?パスポートが日本人の証明になるんじゃなくて?
そんなもの発行してくれないんですよwでもエージェントが言うんですよ。「必要だから大使館に聞いてくれっ」て。私もいやいや大使館で聞くと「そんあのありません」ってw。
それでもまたエージェントから「パスポートの証明書はもらえないか?」と。で大使館からはもちろん「無理です」って。私も「ですよね~w」って返すしかなくて…。

うわー、やはり面倒なポイントが…wその後どうなったんですか?
エージェントと何度か無駄なやり取りをした後に、結局「必要ない」という判断になりました。
ありがちなw
そして書類を一通り提出すると、ある日いきなり呼ばれて面接が訪れます。
ある日いきなり…それもまたありがちなw ちなみに面接では何をチェックされるんですか?
まずは独唱で国歌斉唱。その後にこれまた単独でパンチャシラ(Pancasila)の読み上げ。国家5原則です。そして質疑応答という流れです。面接は6人に囲まれました。
おー、まあ国民になるための面接であればそのあたりは必要かもしれませんね。
暗記物は覚えておけばいいだけなんでね。問題は面接ですよ。
どんなこと聞かれるんですか?
まずは動機ですね。なんでインドネシア人になりたいんだ?って。
入社面接みたいですね。
はい。これらはきちんと回答をしないとダメですよね。私の場合はインドネシアで会社を複数経営していて、数百人の現地従業員を抱えています。
今のところはうまく経営できていますが、ある日突然規制変更があり廃業に追い込まれる可能性もゼロではありません。
そうなると従業員やその家族が路頭に迷ってしまうことになる…、と回答しました。そうすると向こうも「おぉ。すごいね。」とか「確かに確かに」となるわけです。
それは帰化させるべき、となりそうですね。
会社の体制も細かく聞かれました。うちの場合は従業員に対する疾病手当の制度などもしっかりしているのでプラス評価だったと思います。
変わりどころとしては、「もし今が日本軍の占領下だとして独立戦争が起こったとします。その時にインドネシア人として日本兵を殺せますか?」という切り込んだ質問もありましたね。
国籍を変える重さを感じさせる質問ですね…
審査のポイント
ちなみに面接で落ちることもあるんですか?
正確な数字はわかりませんが、けっこう落ちる人もいるみたいですよ。

合否のポイントはどこなんでしょう?
「必要性」と「優秀さ」でしょう。どれくらい帰化の必要性に迫られているか?あとは帰化させる価値がある人間か?今後インドネシアにメリットがあるのか?という点です。
そうか。優秀さを見るために過去の納税記録なども見られるんでしたね。
はい。私の場合は夫婦ともに日本人なので、特にインドネシアへの貢献度は見られると思います。配偶者がインドネシア人の場合は必要性が高いのでけっこう簡単に通るようですよ。
え?そうなんですか?
家族を守るために仕事しないとダメじゃないですか?永住する可能性も高いでしょうし。受理も早いみたいでだいたい申請して半年くらいで通ると聞きましたよ。
あら早い。ちなみに大世さんの場合はどれくらいかかるのですか?
うーん、正確な期間は私もわからないですね。面接は終わっているのである日いきなり受理されることもあるみたいで。
一般的に…そうですね、エージェントからは申請開始から1年半くらいは見ておいて欲しいとは最初に言われました。あくまでも参考情報ですね。
そうなんですね。じゃあ私もいざとなれば変えられそうですね。でもまだまだそこまでの決心はつかないなぁ。一生の決断…。
まあ国籍を変えるのは一大決心ですが、万が一日本国籍に戻したい場合は一度であれば戻せますよ。
あ、そうなんですね!それなら…とはやっぱりならないですよw
必要なタイミング来たら相談してくださいw
最近帰化は増えている?
いやー、今回はなかなかレアなお話が聞けました。ありがとうございます。
いえいえ。でも最近帰化する人が増えているみたいですよ?
そうなんですか?年にどれくらいいるんですか?
毎年日本人でも数名は申請しているんじゃないですかね?今年も私以外に申請した人いますよ。
そうなんですね。
最近は日本人よりも韓国や中国の人が増えているみたいですね。
納得感あります。こっちでビジネスしている人たち多いですよね。
私が面接した時も、待合室に一人中国人のおばちゃんがいました。
経営者ですか?
それはわかりませんが、とにかく…一生懸命でしたよ。一生懸命国歌の練習をしていました。それも中国語訛りがあって音痴なんですよ…。
私も国歌はうろ覚えだったので「(やめてくれ~、忘れてしまう…)」と心の中で耳をふさぐのに必死でした。だから強く彼女のこと覚えていてw
さすが、最後に綺麗にオチが付きましたw
今回は貴重なお話ありがとうございました!無事に受理されますよう祈っております!じゃあ飲みますか!
編集後記
という流れにてこの後、きらきら銀座にて飲むのでした。
飲みながらもさらに面白いお話が聞けましたが、書けることと書けないことがありますw
さらに知りたい!と興味がある方はぜひご本人に直接ご相談してみてください。
ちなみに今年は38ラーメンが外資企業として登記されて15年目だそうです。長いですね。「これもまた良きタイミング」と帰化を後押ししたそうです。
現場からは以上です。