ムスリムが約9割を占めるインドネシアでは、全体的に酒飲みに対する風当たりは冷たい。
具体的には酒税によりビール以外の酒販価格は跳ね上がり、さらに購入できる場所も限られている、という状況です。
特に酒の「価格」はASEAN屈指…というか世界有数レベルの高さではないでしょうか?
この記事ではインドネシアを訪れる方のために、インドネシアのお酒事情を余すことなくお伝えします。
うんちく云々ではなく、酒飲みによる酒飲みのための酒を飲むための記事とします。酒の価格や買える場所の「実用的」な情報を重視します!
本記事の目次
インドネシアのお酒のお値段

まずこれだけは言わせてください…
「どれくらい高いのか?」とよく聞かれますが、感覚的に「シンガポールの方が安い」と感じるほどです。
酒各種の相場観を日本円の感覚でお伝えします。
ビール
ビールだけは日本と同じような値段で飲むことができます。
350ml缶を買うと160円~、のイメージです。
お店で飲むビールはピンキリで、良心的なお店であれば300円程度から。外国人や富裕層相手のアッパーなお店であれば、サービスチャージも含めて1,000円近くになる場所もあります。
ちなみにイスラム教徒の多いインドネシアですが、国産ビールのレベルはかなり高い。
なぜならオランダ統治下が長かったためです。オランダ時代の技術や施設が受け継がれている、と聞いたことがあります。
ワイン
ワインから異常に値段が跳ね上がります。まずはこのツイートを見てください。
日本だと税込み500円で買えるワインが一本あたり3,000円超になる国。それがインドネシア。今までで一番価格差感じた。 pic.twitter.com/7eyhdRY5ax
— jakameshi@腹八分目 (@jakameshi) January 16, 2020
日本だとコンビニで数百円で買えるワインが、数千円になるのがインドネシアです。
上記はレストランなのでちょっと極端かもしれませんね。
ただ、酒屋の場合でも日本で1,000円以下のワインが4,000円近くになります。
だいたい日本で流通する価格の3~4倍です。
逆にいえば同じお金を払っても味は期待値の1/4くらい。
それなりに美味しいワインを飲むためには相応の「覚悟」が求められます。
最近はバリでワイン造りが盛り上がっているのがせめてもの救い。
バリワインであれば国産品ということもあり比較的リーズナブル。

ただ、それでも1本1,800円~という感覚。
味は日本で数5~600円で買えるワインと同じレベルです。
ジャカルタの飲食店でワインを飲むと1本3,500円程度~となります。しかもそのレベルのワインは味が知れている。一方シンガポールでは「WINE CONNECTION」のような店だと1本2,000円~ボトルが飲める。しかも美味い。この差が筆者をして「インドネシアの酒はシンガポールよりも高い」と言わしめるのです。
ウィスキー
ウィスキーも日本の4倍程度します。
事例としてわかりやすい「ジョニーウォーカーブラックラベル(通常ジョニ黒)」を見てみましょう。
日本だと安ければ2500円程度から買えますが、ジャカルタの酒屋で買うと8,000円程度します。
お店で飲むとさらに素敵な価格に…ジャカルタにいるのにまるで銀座で飲んでいる感覚に陥ります。
そもそも正規輸入される品種が少ないので、日本ではありふれた銘柄もインドネシアではプレミアムなお酒になることも多々。
蛇足ですが、質の悪いお店に行くと「混ぜ物」のウィスキーが出てくることもあるのでご注意ください。
筆者も過去に数度偽物のジョニーウォーカーに出くわしています。ボトルの口を「プラスチックの注ぎ口」に差し替えて出してくるお店は要注意。
目の前にボトルを持ってこさせて、あける前に「ビンの口」と「ビンの底」をチェックしましょう(底から入れ替えるという噂もあるので)。
もし少しでも変な味がしたら、飲むのは止めた方がいいです。お金がもったいなくても、その店から出ましょう。健康は酒より大事です。
焼酎や日本酒
焼酎や日本酒は普通の酒屋ではほとんど置いていません。日本人しか飲まないので…。あったとしても異常な値段がつけられていて買う気になりません。
ボトルを買う場合は飲食店でボトルを入れるか、持ち帰るのが一般的。
グラスはどうか?
日本人飲食店業界の頑張りで、居酒屋へ行けば焼酎はグラスあたり500~800円程度で飲むことができます。銘柄を考慮すると、感覚的には日本の1.2~1.5倍程度でしょうか。
日本酒はどうか?
一度封をあけると保存がきかない日本酒はどうしても値段が安くなりません。日本の2倍程度~の感覚です。
さらに日本人相手のお店ではない、ローカル向けの高級店だと3倍~の感覚になります。
『下町のナポレオン』こと『いいちこ』。日本の酒屋だと800円くらいで買えますが、インドネシアで買う(=居酒屋で飲む)と1本7,000円くらいします。もはや下町のナポレオンではなく、ただのナポレオンです。城内のナポレオン!
インドネシアのバリで、日本風の焼酎を購入することができるそうです。詳しくは+62さんのこちらの記事をご覧ください。
リキュール
リキュールもウィスキーと同じで市販価格の時点で日本の3~4倍のお値段がします。
そうなると当然ながら「カクテル」の値段も跳ね上がります。
そもそもカクテルを作れるお店が「外国人や富裕層相手の高めのお店」ということもありますが、ちゃんとしたジントニックを飲もうとすると税込みで1,000円からスタート!という感じ。
しかも、1,000円払ってもだいたいまともじゃない。
まともなジントニックは1300円は出さないと飲めません…(あくまで個人談です)。
ちなみにジャカルタで飲む1,000円以下のジントニックはたいがいひどいです。バーテンに「てめぇ!ジントニック飲んだことねぇだろ!」と言いたくなるくらい…。
蛇足ですが、インドネシアのバーテンさんにはなんとムスリムのバーテンもいたりします。
その他
韓国のマッコリや韓国焼酎は、韓国系レストランへ行けば比較的リーズナブルに飲めます。韓国のお酒ってすごい安いんですよね。
なので輸入して関税かかってもまだ耐えられる。日本酒より一回りか二回り安い感覚ですね。
例えばマッコリ500mlを1,000円程度で出すお店もあります。もちろん本場韓国と比べればだいぶ高いのでしょうが、酒飲みとしては救われる値段感。
それ以外のお酒…例えば「グラッパ」とか「リモンチェロ」など珍しいお酒はほとんど流通していません。
飲みたい方はマレーシアのクアラルンプールへ行くと比較的リーズナブルに飲めます!
インドネシアでお酒が飲める店

お酒の値段が高いことは伝わったかと思います。
次は「どこで飲めるの?」という話です。「そもそも飲めるのか?」と気になる方も多いでしょう。
結論からお伝えすると、インドネシアの飲食店でも酒は飲めます。
ただ、ジャカルタか?ジャカルタ以外か?によって状況はかなり異なるでしょう。
ジャカルタでお酒が飲める場所
外国人も多く暮らすジャカルタでは、お酒を飲める場所は多いです。
とはいえ、日本のように『そこら中のお店に必ずビールが置いてある』というわけではありません。
外国人向けのレストランやバー、もしくは華僑やバタック人が経営するローカルレストランに限られます。
ジャカルタでお酒が飲めるお店には以下のようなものがあります。
- ホテル内のカフェやバー、レストラン
- ショッピングモール内にある、外国人も訪れる高めのバーやレストラン
- 外国人が多いエリアの路面店
- コタの中華料理
一番確実なのはホテル内にあるお店です。外国人顧客を前提としているので、ほとんどのホテルではお酒を飲むことができます。ただしホテルなので価格は高め。
また、しょぼいホテルだとカクテルやウィスキーが「ない」もしくは「バーテンがほぼ素人」な可能性もあるのでご注意ください。
ビールやワインならば3つ星以上、カクテルを飲むなら5つ星以上のホテルを選びたい。
大型のショッピングモールでもお酒を飲めます。
外国人や富裕層狙いの綺麗めなお店に行けばまず最低限ビールは置いてあります。さらにイタリアンやフレンチであればワインやウィスキーなども飲めます。
ただし大型ショッピングモールは家賃が高く、その分メニューの価格も高い。ホテルよりはマシですがハードリカーを飲めばそれなりにお金がかかります。
そこで登場するのが「外国人向け路面店」です。
現地に長く住む外国人がオーナーのレストランへ行けば、比較的リーズナブルにお酒を楽しむことができます。
ビール以外のお酒を飲んでも、外国人同士の助け合いを感じるお値段だったりします。
たとえば西洋人が多いKemangエリアではドイツ料理やイタリア料理、スペイン料理など。ブロックMエリアでは居酒屋。Dharmawangsaの方では韓国料理店が多くあります。
これらの店ではビール含む、その国の人が好むお酒が置いてあります。
最近は外国人だけではなくローカルの酒飲みもこの手のお店を訪れるようになりました。
ビールだけでいい、という方は華僑が住むコタエリアに行けば、安くて冷えたビールを美味しい中華料理と一緒に楽しめます。
ビールだけのお店も多いのですが、コタでもちょっと高級路線のお店に行けば洋酒を置いてある場合があります。
ジャカルタ以外の都市やエリアでお酒が飲める場所
ジャカルタ以外の地方都市へ行くと一気にハードルが上がります。基本的な考え方はジャカルタと変わりませんが、酒を出すお店の絶対数が激減します。
比較的人口が多く、人の流れも活発な「スラバヤ」や「バンドン」はまだ探しやすいでしょう。それ以外の地方都市になると、事前に下調べしておかないと「ビールすら飲めない」ということもあります。
特にイスラム教の強いエリアでは顕著ですので、訪れる前に店名まで調べておいた方がよいです。
ちなみに筆者も数年前に前情報無しでジョグジャカルタ(イスラム教の人が多い)を訪れ、街をさまよい歩いた挙句結局ホテルに戻ってビールを飲んだ…という記憶があります。
逆にキリスト教徒の多いエリア(例えばメダンやフローレス)であれば、比較的容易に酒を飲める店を見つけられるでしょう。
レストラン以外でお酒が買える場所

「飲食店はわかった、ところでお酒はどこで買えるの?」という問いに答えます。
インドネシアでお酒を「買える場所」は限られます。
昔はコンビニでもビールが購入できたのですが、2015年の規制によりコンビニから酒は消えました…。
現在は「スーパーマーケット」や主にショッピングモール内にある「酒屋(リカーショップ)」が主な購入場所となります。
スーパーマーケットではビールが買えます。また外国人向けの高級スーパーであればバリ産のワインを置くところもあります。
ただ地方都市に行くとスーパーであってもお酒を置いてない店が増えるのでご注意ください。
リカーショップではウィスキーやリキュール類を買えます。ジャカルタを含め、リカーショップの数は限られます。購入に動く前に事前にインターネットで調べることをお勧めします。
蛇足ですが2015年以前のジャカルタではワルンと呼ばれる道端のお店でもビールを置いてある店がたまーに、ありました。残念ながら現在はビールを置いてあるワルンは、バダック人がやっているお店くらいになりました。
また、昔は超厳格なイスラム教のエリアでも「闇市」のような場所が必ず存在していたそうです。現在でもあるのかないのか…。
一つだけ確実なことは酒に対する締め付けは年々厳しくなっている、ということです( ;∀;)。
某イスラム法が適用されている地域でも、お酒の流通はしているそうです。聞いた話ですが…ぼろいお店の奥に隠れた扉があって…合言葉を言うと通してくれて…という世界だそうです。まぁこれは昔の話らしいので今はどうなっているかわかりません。
インドネシアの酒が高いのは酒税のせい

ここからは余談に入りますので、興味がない人は読み飛ばしてください。
そもそもなぜこんなにインドネシアの酒は高いのか?
答えは簡単…酒税が高いから。
NNAアジアの報道によれば、インドネシアの最新の酒税はこのようになっています。
記載情報は2020年1月時点のものですので、ご留意ください。
引用:NNA ASIA
筆者が愛するウィスキーは1リットルあたり139,000ルピアなので、だいたいウィスキー1本(750mlあたり)850円くらい課税されているイメージですね。
一方で日本の酒税はこのようになっているようです。
引用:財務省
ウィスキーは1KLあたり370,000円。1Lに直すと370円。だいたいウイスキー1本(750mlあたり)280円くらい課税されているイメージですかね。
ということでその開きは3倍。手元に届く価格が日本の3倍~になっても不思議ではない。
さらにムスリムが多いインドネシアでは酒飲みへ対する風当たりも、酒売りに対する風当たりも厳しい。詳しい話は割愛しますが、飲食店の「酒販免許」もかなりのお値段がすると聞いています。
このような事情が重なり、人件費の低さでも吸収できないほどのお値段になってお酒が手元に届くというわけです。
インドネシアへのお酒のハンドキャリ―持ち込みは上限が1Lと決められています。免税超過分の計算方法については、BAHTERA HISISTEMさんの記事がわかりやすいのでご参照ください。
インドネシアで進む禁酒ムードと合成酒

インドネシアで酒税がここまで高いのは、酒飲みがマイノリティだから、ということに尽きるでしょう。
インドネシアの9割近くを占めるムスリムは教義上お酒は飲みません(個別のケースは触れません)。
話はさらに脱線しますが、この『ムスリムに合わせて行く方針』は今後進むことはあっても、緩むことはないでしょう。少なくともお酒については…。
細かい話は割愛しますが、前回の大統領選でも現政権が示したとおり、政治におけるムスリムポピュリズムは年々進行している印象を受けます。
2015年にコンビニからビールが消えた後も、国会で禁酒法が審議に上がったり下がったり。

これらの主張の背景にあるのはお酒の健康被害です(※)。
※「宗教上」というと政教分離との乖離を突っ込まれるので、禁酒主張側はあくまでも健康上の理由を口実にしています。
インドネシアでは定期的にOpolsanと呼ばれる化学合成酒が問題になっており、何かとこのOpolsan問題とお酒の規制がセットにされます。
でも、筆者は逆だと思っています。酒の規制を強めれば強めるほど、合成酒問題は深刻になるのではないか?と。
このネットの時代、どこまで規制を強めてもお酒の存在を隠し通すのは無理。どれだけ規制しても酒に惹かれる若者は一定数生まれてしまう。
そして正規の酒が見つからず、見つけても高くて買えない若者は安い合成酒に手を出す、という悪循環だと思うのです。知らんけど。
それよりも開放路線で、安価で飲める国産品を手に入りやすくしてはどうか?と思うのは、おそらく筆者のような外国人だけなのかもしれませんね…はい。はぁ、悲しい。
ちなみに、蛇足ですがインドネシアではビールとワイン以外にも、国産リキュールを作っている会社もあります(たしかスマランのあたりに…)。
インドネシアの在留邦人からすれば、日本の酒事情は天国
こんなインドネシアで生活している私たち酒好き在留邦人からすれば、日本の酒事情などこの世にありながらの天国以外の何者でもないのです。
居酒屋に行けば美味い日本酒が千円以下で2合も飲める…
グラス焼酎も、グラスワインも美味しいものが数百円…
バーで飲むウィスキーだって適正価格…
コンビニでボトルワインが数百円から買える…
夢のような缶酎ハイのレパートリー…
ピーチネクターの酒とかもはや罪…
挙げればキリがありません。
色々課題も多い日本ですが、飯の安さ以上に酒の安さは世界屈指だと思います。
それでも飲みたいなら持ち込もう!
つらつらと、インドネシアのお酒を取り巻く事情を網羅的に書いてまいりました。
これで伝わったかと思いますが、インドネシアはお酒が高いのです( ;∀;)
しかしそれでもやめられないのが酒飲みのSAGA。
そんな時は持ち込みましょう。
安く飲むためには「持ち込み」が一番です。幸いにも日本人経営のお店では、お酒の持ち込みについては皆さんある程度寛容です。
さらなる最終手段として「酒を作る」という選択もありますが、そもそもコスパが悪いのと、旅行者や出張者には無理なのでおすすめしません。

インドネシアの事情をよく理解し、上手にお酒と付き合ってくださいね。
そしてこれ以上酒飲みを取り巻く環境が悪化しないことを祈ります。
アミーン。酒飲みに祝福を。