今回は少し脱線した投稿です。
筆者は飲食関連事業で駐在しており、周囲にも飲食まわりのお知り合いが多くいます。
ある人は大手飲食店の進出担当として働いていたり、
ある人はインドネシア国内で独立して店舗を立ち上げていたり、
ある人はインドネシア人パートナーに雇われる形で店舗を任されていたり、
形は様々です。
各人ともに異なる業態に属しているため、進めている戦略が異なりますが、よく議論になるのが「日本食」について。
日本食を広めるとはどういうことなのか、というテーマです。
本記事の目次
世直し思考の「日本食を広めたい」は必要か?
よく「本物の日本食(※)を広めたい」という声を聞きます。
※ここでは和食もそうですが、日本で進化した洋食も含みます。
海外旅行すると誰しもが思いますが、美味しい日本食、無いですよね。
超高級業態であれば別ですが、一般人が行けるような通常業態だとまず発見できません。
和食が無形文化遺産にすらなっており日本食が最高だと考えがちな我々は、「本当に美味しい日本食を広げねばあかんぜよ!」と世直し的な方向へ動いていきます。
でも、日本食は絶対的に美味しいものなのでしょうか?
その世直し的な思考は本当に必要なのでしょうか?
本物の日本食がローカルにとっても絶対的に美味しいわけではない
実際に住んで生活してみるとわかるのですが、日本食の美味しさは絶対ではありません。
あまりにAuthenticな日本的味付けにすると、逆に「美味しくない」という人々が少なからずいます。
富裕層ならまだしも、中間層では特に顕著でしょう。
筆者が考える理由は、2つあります。
理由①:自国料理以外の味を知らない
インドネシア人のほとんどは外国の世界を知りません。
海外へ行ける人はまだ一握りではないでしょうか。一部の富裕層を除き、海外へ行けたとしても近隣の東南アジア諸国まで。
Authenticな日本食はもちろん、Asian Ethnic以外の他国料理を知らない人がほとんどでしょう。
自国料理以外の何が美味しいのかわからない人がほとんどだと思います。
繊細な味の変化をまったく理解しない人が多いです。
理由②誤った日本食のイメージ(でも彼らにとっては真実)
インドネシア国内で日本食レストラン知ってる?と聞くと、だいたい「Hokbenだろ?」と返ってきます。
Hokben(2013年までHoka Hoka Bento)は低価格帯日本食レストランで創業30年の老舗です。
<写真はHokbenオフィシャルサイトより抜粋>
Hokbenは純インドネシア発の飲食店で日系要素はまったく入っていません。
が、日本人旅行者も勘違いするほど「ホカホカ弁当」にInspiredされています。
インドネシア人に至ってはいまだにHokbenを日系企業だと思っている人も多く、「あの味が日本食」と考えている人が多数。
日本人からすると日本食に対するあらぬ誤解以外の何物でもないのですが・・(正直美味しくはない)。
ただ、これがインドネシア人のマスと言われる中間層にとっては真実であり、この味を基準に日本食を捉えているのだと思います。
勝つお店は徹底してローカライズしている
世界から美味しいと言われる日本食といえども、インドネシア現地で受け入れられるためにはローカライズが必要です。
現地で勝つためには現地人に美味しいと思ってもらえば良いわけで、日本人に美味しいと思ってもらう必要はありません。
これが伝統的な日本食だ、と現地人に理解してもらう必要もありません。
日本食の代表格、ラーメンを見てみます。
日本からの進出は続いており、一風堂もジャカルタには進出していますが、現地で一番人気はIKKUDOというラーメン屋でしょう。
細かい話は割愛しますが、日本人と華僑が一緒に運営しているお店らしい。
ジャカルタ中心のショッピングモールにいくつも入っており、他店がヒマな時間帯でもギュウギュウに客が入っていたりします。
ただ、あくまで私個人の感想ですが日本人ウケする味ではありません。
でも、連日大人気です。
インドネシア人に言わせればIKKUDOが一番美味い、と。
インドネシアに来た当初は私も世直し思考で「あれは最高のラーメンではない」とインドネシア人によく言っていましたが、今ではあれこそが生き残った日本食の姿なんだな、と感服しています。
本気でローカルのマスを狙うのであれば、振り切った方が勝ちます。
ハンバーガー屋のマクドナルドやチキン屋のKFCですら「ライス」を売っているくらいですから。
いきなり話が広がりますが、世界は別に、日本人が良いと思う日本食を求めているわけではありません。
彼らが美味しいと思う日本食を求めています。
この考え方は食だけではなく、他の分野でも同じじゃないか、と考える今日この頃です。
最近よく聞く話ですが、日本が自分で思うクールなジャパンは決してクールではないのでしょう。
【2018年追記】
2017年末に書いた、同じテーマの続編的記事のリンクを貼っておきます。ご興味ある方はぜひ覗いてみてください。